4/9 関西空港にて搭乗。14時間と45分のフライトである (図1 (a) ) 。搭乗率は3~4割といったところである。三席貸し切り (図1 (b) ) だったので、横になることができた。食事は2度出た。1食目は「Beef or Chicken ?」と聞かれて提供される典型的な機内食であり、Chickenを選択した(図1 (c) ) 。2食目は重めのパンがでた (図1 (d) ) 。食事に映画などであっという間に時間がすぎ、無事にシャルルドゴール国際空港に到着した (図1 (e) ) 。「入国にはワクチンの接種証明書が必要である」とエールフランスの発券手続きの職員は言っていた。しかし、実際にはパスポートを見せるだけであった。空港到着後、空港周辺のホテルに一泊した。自動販売機で炭酸水を一本買うのに3€ (約390 円)もかかった。後にスーパーで炭酸水を買ったら1€程度であった。夕飯はビュッフェであったが (図1 (f) ) 、これも3900 円した。物価の高さを感じたが、そのホテルがボッているだけであった。パンは硬いが、食事は確かにうまかった。毎日食べていれば、ブクブクに太るだろう。
奨学金の給費手続きのため、奨学金手続き担当者あてに、パスポートの入国スタンプを送付した。
4/10 シャルルドゴール国際空港から、留学先であるクレルモンフェランへと向かう。現地時間5時半に起き、モーニングを食す。クロワッサンに、チーズ、コーヒー、フルーツ。1500円のビュッフェである。やはりボッている。その後、無料鉄道サービスで空港に戻る。搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗る。今回は1時間のフライトであった。空港から降りると、そこには、見渡す限りの美しい山々と自然に囲まれていた。かつて、ユリウス・カエサルのガッリア (フランス)平定を阻止しようとしたウェルキンゲトリクスというガッリア人が本拠地をおいた、ガッリア・アクイタニァがまさにこのクレルモン フェランである。タクシーにのり、宿屋へ向かった。本来は月曜日から入居ができる予定であったが、一日前倒しで宿泊することができた。そのせいか、シャワーカーテンはないし、寝具もない、Wi-Fiもつながらない、水道も流れない、冷蔵庫も動かない部屋に住むことになった。
日曜日はスーパーがほとんど休みである。その上、日本のように至る所に自販機がない。たくさん建物があって、美しい自然に恵まれているのに、肝心の飲料水がない。砂漠と何ら変わらない。突然のサバイバルが始まった。そのため、唯一空いている3キロ先のスーパーに行く羽目になった。
4/11 朝散歩をしていると見知らぬフランス人に握手を求められる。日本語を少し知っているようである。街を歩くと至る所で「Bonjour」「Merci」「Au revoir」と挨拶が沸いてくる。この国ではどんな場所でも、誰にでも挨拶は欠かせない。
研究所に行く。路面電車で15分の場所にその研究所はあった (図2) 。大学の敷地内に電車が走っているようである。留学先のCedric先生と初対面する。今後の研究方針について話し合った他、研究室の学生と少し交流した。この研究室は、平日の朝9時から18時 (どうしても研究が長引く場合は19時まで)までの間は来て良いことになっている。この時間帯は、研究室が解錠されている時間であり、必ず来なければならない時間ではない。日本のお菓子/和菓子を持っていった。評判は上々。助教授の先生は日本のファンのようである。今年訪れることができたら富士山を登りたいと言った。イタリアに訪れたことがあると言ったら、「イタリアなんて….フランスが一番」とおっしゃられた。どんな場所でも、隣国同士仲が悪いことは避けられないようである。
大学の食堂を利用した。この食堂は阪大の「かさね」に相当するところである。マカロニパスタと、魚のムニエルを食した。なかなかボリューミーである。一部の人々は昼食に無頓着であり、Cedric先生はりんごをかじるだけで十分な時もあるようだ。食堂を利用したものの専用のカードが必要であり、現金やクレジットは受け付けないようである。たまたま近くにいた学生に助けてもらった。ご丁寧に連絡先までいただいた。聞くと答えてくれるようである。
明日は銀行口座の開設、その他もろもろの手続きを行う。奨学金が手に入り次第、もっと良い宿を探す。この宿屋には、ブランケットが無いようである。マットの上で白衣を毛布、カバンを枕にして寝る他ない。ランドリーサービスも探さなくてはならない。研究室の学生曰く「あんなところに住んでるやつは他にいない」と言われるほどの宿屋である。
4/12 移民手続きをオンラインで行う。これは簡単に済んだ。
銀行口座の開設を行う。銀行口座はフランス政府からの奨学金の支給および、今後国内から支給される奨学金を送金するのに必要不可欠である。ネットの情報を調べてみると、「VISA」「PASSPORT」「住居証明」「収入証明」などが必要とのことであり、「住居証明」と「収入証明」のコピーを行う必要があった。フランスは日本と違ってコンビニがない。コピー専門店に行って、コピーをとるか、スーパーマーケットに低確率で設置されているコピー機を利用する必要がある。2駅先のスーパーのコピー機を利用した。コピーを終え、銀行に向かう道中、三つ星ホテルのレストランで昼食をとった。フランスでは、1人でレストランで食事を取ることはあまり好かれないと聞いていたが、一定の割合で「おひとりさま」が存在した。何も一人を恐れることはない。まず、サラダを頼んだ (図3 (a)) 。パンチェッタ入りのシーダーサラダに、ヤギのチーズを衣で包んであげたものが載った、サラダが出てきた。この揚げ物は、ヤギ独特のクセのある臭いがするものの、非常にクリーミーで美味しかった。次に、「本日のプレート」なるものを頼んだ。本場のフレンチフライと手羽先煮込みが出てきた。フレンチフライは揚げたてで程々の塩加減である。手羽先は、軟骨が簡単にフォクで剥がせるほどにクタクタに煮ていた。赤ワインと非常に相性が良かった。その後ウェイトレスに「デュデュデュ Café ? デュデュ?」と声をかけられた。おそらく食後のコーヒーはいかがかということであるので、「アンカッフェ シルブプレ」と言ったらコーヒーが出てきた。意外と通じるものである。脂っこい食事の後に最適なコーヒーであった。会計をしたところ、3900円であった。高いように見えるが、実際は何人かの人たちでシェアしながら食べる料理である。彼らフランス人は、親しい人々と集まってワイワイガヤガヤ何時間も話しながら昼食を取るので、飯代だけでなく時間代・雰囲気代を考えればこれくらいの値段はむしろ安いくらいである。我々日本人が月に一度程度、金曜や土曜日の夜に大宴会を開くのと同じように、彼らにとっては昼間に皆で食事を取るのが娯楽なのである。
食事を終え、長い坂を登ると銀行があった。時間通りに銀行が開いた。行員の一人が英語で対応してくれた。必要書類のコピーをとってくれた。彼らは基本的に親切である。明日も銀行に行かねばならないようである。明日は午前は銀行での手続き、午後は研究室で試薬の確認を行う。
4/13 時差ボケが解消する。モンスターで強制的に起きて、ドリエルで強制的に寝るという組み合わせは、時差ボケの対策に有効であることを知る。
午前は銀行口座開設を行った。グーグル翻訳の音声入力機能などを駆使して会話を行う。フランスの人は、英語を嫌っているのではなく、フランス語が話せないことにガッカリしているそぶりを見せる。長い歴史と伝統があり、文化の成熟したフランスで完成されたフランス語をなぜ、フランスにいて話さないのかという失望を彼らから感じ取れる。グーグル翻訳を使ってでもいいからフランス語を話すようにすれば、彼らは歓迎してくれる。
午後は研究室で、試薬の確認と今後の予定を聞いた。Cedric先生は忙しなく動いている。とても忙しいようであり、言葉も動きも目まぐるしく変化する。今後の研究に必要な試薬を確認した。そして、明日までにキトサンPhの合成スキームを用意しろとのことである。来週に合成を行い、次週にさらなるキトサンPhの改良を行う。その後、物性の評価を行い、そしてプリンティング試験を行う算段である。彼らは無理な計画を立てない。期間を第一に把握し、その期間内に無理なくやり切れる計画を立てる。そして、与えられた期間の中で、仕事を完遂し、それ以上のことは極力やらない。このことを子供の頃から刷り込まれているようである。一見簡単なように見えるが、日本的感覚からすると意外と難しい。
午後に紅茶を飲みながら、研究室の学生と少し交流した。フランス・ポルトガル・中国・インド・モロッコ、様々な人たちがいる。男女比は3:7であり、日本の高専・理系大学の真逆である。以前、VISA申請の際に、お話ししたフランス大使館の科学技術部門の参事官2人 (博士学位もち) も女性であった。理系に対する捉え方が日本とは少し違うようである。そもそも日本のように理系と文系が概念として明確に分けられてないのかもしれない。しかし、教員の男女比は日本とそう変わらない。世界の七不思議の1つと言えよう。
研究室のメンバーから「クライム部」なるWhatupp (LINEに相当するSNS) のグループに招待された。この研究室には「クライム部」があるようであり、壁をよじ登ることに無性の喜びを感じているそうである。今週か来週に壁をよじ登りに行くそうだ。
4/14 午前は実験を行う。研究室のルールは日本とそう変わらない。
昼食をphDの人たちと食べる。フランス語のわけの分からなさについて談笑する。70の桁は「60+10」「60+11」というふうに数えたり、90は「2*40+10」というふうに数える理由は今になっても分からない。学生の一人が目をキラキラさせて「進撃の巨人って知ってる?」と聞いてきた。この地にも地ならしがやってきたと思うと嬉しい。研究室を出て、奨学金の受け取りに行く。現金で1004 € (14万円弱)をもらった (図4 (a)) 。とても重たかった。
午後は買い出しに行く。Tramway (図4 (a)) の終着駅、「ラパデュガール」駅には大きなショッピングモールがある。400 m×400 mくらいある大きなショッピングモールである (図4(b)(c)) 。日本は土地が狭いので、ショッピングモールは階層構造になるが、フランスは土地が広いので階層構造にする必要がない。ドライヤー、電気ケトル、毛布などを購入する。ドライヤーとケトルは1500円程度であった。スーパーマーケットに、袋やリュックを持って入ると必ず、それらの中身を確認させられる。万引き対策のためである。日本にはあまりない習慣である。
その後、コインランドリーサービスを利用する。衣類9 kgまでならで4.9 €で洗濯が可能である。1週間ためて洗濯するのであれば、1ヶ月で19.6 € (約2700 円)で済む。まずまずである。
4/15実験の続きを行う。研究室の備品がどこにあるのか把握に努める。特筆することは特にない。これから快適に過ごすための、設備はほぼ全て整った。いかにして贅沢に過ごすのかということを考え始めているので、留学生活の第一段階はクリアしたと言える。言葉の壁こそあれど皆親切である。あとは、この研究でどれだけデータを獲得できるのか、それが今後どのように生かされるのかを考える必要がある。
ホットプレートが手に入る。カタツムリを焼く (図5)。カタツムリはスーパーに売られている。カタツムリの上に乗った緑色のバターソースの香りはよかった。しかし、味がない。カタツムリはスポンジを少し硬くしたような硬さで、無味である。塩をかけると味が良くなった。カタツムリは1個で十分である。12個食した。
4/17 自炊を行った。ホットプレートに鍋をおいて、マッシュルームとニンニクを、ひたひたのオリーブオイルで加熱する。香り付けにポルチーニ茸を加え、塩で味付けをして、アヒージョを作る。その後、共用キッチンで、マカロニを茹で、それをアヒージョに加えれば、イタリア料理が完成した (図6 (a))。次はアンチョビを買い揃えて旨みを増やしたバージョンを作りたい。このパスタ料理の他に、ヤギのチーズを生ハムで巻いた料理、サラダ、ヨーグルトを食した。ヤギのチーズは、一歩間違えれば、洗濯に失敗した服のような臭いがするが、旨味が強い。生ハムと巻くことで臭みを抑え、旨味だけを引き立たせることができる。
フランスのインスタント食品、レトルト食品は、日本に負けず様々なバリエーションがある。レトルトのパエリア (図6 (b))、インスタントパスタ、スープなどなど様々である。しかし、日本のものと比べると旨味や塩気が少ない。塩気と旨味の強い食べ物を、いかに日本で食べていたのかということを痛感する。
フランスは日の入りが遅い。夜7時だというのに、まだ日本の夕方4時代くらいの明るさである (図6 (c))。宿屋の窓の外の名前のわからない花を眺めながら夕飯をとる。明日は、午後からスーパーなどの商店が休みなので、最低限の買い物を午前に済ませて家にとどまる。
(b)レトルトパエリア
(c)宿屋の窓の外の夜7時の風景
4/18 今日 (日曜日) はイースターである。紀元33年、ローマ帝国のユダヤ属州、エルサレムにおいて、属州民の要請を受け、属州総督PONTIVS PILATVS (ポンティウス ピラトゥス) の命によりIESVS (イエス) と呼ばれる男が処刑された (図7 )。その後、イエスは復活したという伝説があるが、その復活した日がイースターと呼ばれる祝日である。そのこともあってか、今週はまるまる1週間ラボのメンバーは教員もドクターも含めてホリディをとるそうである。今週研究室に来られるように、ドクターのEliseさんと呼ばれる人から研究室の鍵をもらう。
4/19 イースタの翌日の月曜日も同様に、祝日である。午後からはスーパーも、レストランも営業をやめている。唯一オープンしているのは、ムスリム系の人々が経営しているハラルスーパーか、ケバブ屋くらいのものである。午前は、Clermont-Ferrand一体でサービスを行なっているレンタルチャリンコサービス、C.Véloの自転車を利用してサイクリングを行う。専用アプリをスマホにインストールし、アカウントを作り、料金さえ払えば、町中至る所にある自転車のステーション (図8 (a) ) で自転車をレンタルすることができる。1時間の利用は無料である。1週間の利用で、たったの7 €なのでお得である。
フランスの自転車事情について記述する。フランスでは、歩道は原則自転車の乗り上げが禁止されているようである。自動車道の右側を走るか、自転車専用のレーンを走ることになっている。交差点や自動車道が狭い時など、やむを得ない場合のみ歩道の走行が認められる。法律でそう定められているというよりは、マナーとして守らねばならないことであり、みんな守っている。守らないと少し冷ややかな目で見られる。日本でも一応自転車は、原則車道を走る必要があるが、それは守られていない。一方で、マスクのルールについてはフランスと日本で真逆である。日本では、マスクを「必ず付けなければならない」が (つけないと冷ややかな目で見られる) 、フランスでは「マスクをつけたほうが良い」という程度の認識である。道ゆく人の90 %はマスクをつけていない。公共交通機関でもつけている人は50 %いれば多い方である。
自転車に乗ってミシュランの本社周辺へと向かう。ゴム製品やグルメガイドで世界的に有名な、ミシュランの本社はClermont-Ferrandにある。本社は、500 m×500 mくらいの大きなオフィスであった (図8 (b)) 。その近くに、ミシュランの博物館、L’aventure Michlinがあった (図8 (c)) 。この博物館は、歴代の製品とともに、ミシュランの歴史が紹介されていた (図8 (d)) 。ミシュランは自転車のタイヤのゴムの開発に始まり、今ではレーシングカーのタイヤや、ゴムの木の植林事業など様々なゴムにまつわる事業を展開している。
4/20 実験の続きを行う。
フランス国内用の電話番号を入手した。Lebara (https://mobile.lebara.com/fr/fr/?gclid=CjwKCAjwu_mSBhAYEiwA5BBmf8qkfsUI3pOeHdIf-3SOoseEayKb6RvbDF4afDB-5Ed7xpTVLYC7BhoCQYMQAvD_BwE)は、外国人向けに、フランス国内で携帯を利用するためのSIMカードを提供している。住居証明やクレジットカード番号さえあれば、利用できる。40 GB/月で9.9 €程度の格安のサービスである。
大学内の食堂サービス、ランドリーサービスなどを格安で受けることができるCROUS (https://usine.crous-clermont.fr)への登録を終える。これには住居証明、奨学証明、大学受け入れ状などを必要とした。アプリにログインし、クレジットカードなどを通して入金する。アプリのQRコードを見せることで、大学内の食堂サービスを活用することができる。一回の食事は3~4 €程度である。
銀行カードが届く。奨学金の受け取り、家賃の引き落としなどに必須ある。登録した銀行は、BNP Paribas (https://mabanque.bnpparibas)である。
アミガサ茸を購入する (図9 (a)) 。アミガサ茸はフランスのキノコの中で、最も有名なキノコの一つである。カサがネットのようなアミアミ構造であることが特徴である。マッシュルーム、ポルチーニ茸と共に、オリーブオイル、トマトソース、赤ワインで煮込んだ。アミガサ茸そのものに旨味はないが、カサに味がよく染み込み、かつシャクシャクとした食感で、美味である。缶詰のアミガサ茸が手に入ったが、秋になれば生のアミガサ茸がスーパーに売られているそうである。惜しい時期に留学した。
Brique de cabraと呼ばれるチーズ (図9 (b)) は、ヤギのミルクでできている。カマンベール のようなネットりとしたチーズであり、冷蔵しないとどこまでもとろけてしまう。臭いは、カビチーズをタンスの奥に一年間しまい込んだような臭いがする。ネットりとした食感の奥の奥深いところに旨味があり、上級者向けのチーズである。パンの上に載せて加熱して食べると旨味を引き立たせることができる。赤ワインと共に食すと美味である。食料にも備蓄ができ、ほぼ全ての大勢が整った。あと1ヶ月すれば自宅でフルコースだって作れるだろう。この研究留学は、いかにたくさんのデータをとり、いかに美味しい飯にありつくことができるのか、ということがテーマになった。
(b)Brique de cabra
4/20 渡仏12日目にして雨がようやく降る。Cedric先生はキトサン関連で色々なプロジェクトを持っているそうで、そのディスカッションをCedric先生と行う。たくさん関わってみたい。
焼きカタツムリが想像以上にカタツムリ
結構面白いので次回も期待!